コレッジョの後半生と代表作品
・1524年、30代半ばのコレッジョは、マスターピースである「Lamentation of Christ」(下図1枚目)、「Martyrdom of Four Saints」(下図2枚目)を描いています。画風はコントラストが強く、動的かつドラマチックな表現になり、来るべきバロック様式の先駆けとなっています。
残念ながら「Lamentation of Christ」では、はしごの男性が小さすぎ、不自然に見えます。距離を加味して計算すると、はしごの男はキリストの3分の2の身長しかありません。
後期の宗教画の代表作は以下の通りです。天井画を制作する前(前回の記事)の作品と比較して見てください。格段にレベルが上がっていることがわかります。
・1523 Noli me tangere
・1524 San Sebastiano Madonna
・1525 Madonna of the Basket
・1526 Mystic Marriage of Saint Catherine
・1526 Adoration of the Child
・1528 Madonna della Scodella
・1530 Madonna and Child with Saint George
・1528年、パルマのサンタントニオ聖堂の祭壇画「Madonna of St. Jerome(聖ヒエロニムスと聖母)」(下図1枚目)を制作しました。この作品は、コレッジョの代表作の一つで、「Il Giorno(イル・ジョルノ)」(日本語では「昼」の意味)と呼ばれています。
・1529年、「The Adoration of the Shepherds(Nativity)(キリストの降誕)」(下図2枚目)を制作、こちらはIl Giornoに対して、通称「La Notte(ラ・ノッテ)(夜)」と呼ばれています。
・1525年頃から マントヴァ公Federico II Gonzaga(フェデリーコ2世ゴンザーガ)の依頼で、神話画を描き始めました。最初の2作品「Venus with Mercury and Cupid」と「Venus and Cupid with a Satyr」の評判が上々であったため、フェデリーコ2世はスペイン王カール5世への献上品として追加注文をしています。
依頼を受けてコレッジョは、古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」を題材にした、コレッジョの最高傑作とされる4点からなる神話シリーズ「Loves of Jupiter(ユピテルの愛)」を制作しました。
フェデリーコ2世は、4点のうち 「Leda and the Swan」と「Danaë」をカール5世に贈り、残りの2点「Ganymede Abducted by the Eagle」と「Jupiter and Io」を彼の私邸であるPalazzo Te.(テ離宮)に飾っていましたが、死後、こちらの作品もスペインへ贈られています。
下図はティツィアーノの描いたフェデリーコ2世ゴンザーガとテ離宮。
・1525 Venus with Mercury and Cupid(下図)
ヴィーナスの傍でメルクリウス(マーキュリー / ヘルメス)がクピド(キューピット)に読み方を教えています。ヘルメスはゼウスとマイアの子供で、神々の伝令役でした。特にゼウスの密命を多くこなし、伝令だけでなく隠蔽や殺害指令を実行するなど、007のような役回りもこなしています。
・1528 Venus and Cupid with a Satyr (Jupiter and Antiope)(下図)
ヴィーナスと息子のエロスが寝ているのを半獣半人サテュロスが見つけたところです。この作品は当初「Jupiter and Antiope(ユピテルとアンティオぺ)」であると考えられていました。ユピテルとはゼウスのことで、変身物語ではサテュロスに変身してアンティオぺを誘惑します。
しかし、この解釈には疑問があり(サテュロスがユピテルの変身したものであることを示す表象がない)、この絵のタイトルも現在は「Venus and Cupid with a Satyr(ヴィーナスとクピドとサテュロス)」となっています。だいたい、この作品は「ユピテルの愛」シリーズ以前の作品なので、「変身物語」をモチーフとしていると考える根拠もありません。
・1530 Leda and the Swan(レダと白鳥)(下図)
レダは、スパルタ王テュンダレオースの妻でした。ゼウスは人妻であるレダを見初め、白鳥に変身して誘惑しました。この作品のレダの顔はレオナルド・ダ・ヴィンチのレダに大変似ています(首を傾げたポーズなども)。ただし、コレッジョはダ・ヴィンチよりも際どいところを突いており、白鳥がレダの股間にいる状態を描いています。
下図2枚目はレオナルド・ダ・ヴィンチの「レダと白鳥」をチェザーレ・ダ・セストが模写したものです。ダ・ヴィンチの作品は現存しません。
ちなみに3枚目はミケランジェロの「レダと白鳥」です。こちらも現物は失われています。作品の制作年は1530年頃なので、コレッジョと同じ時期ですが、全く異なる作品となっています。ミケランジェロの作品は、デザイン性が極めて高く、革新的な傑作となっています。
・1531 Danaë(ダナエ)(下図)
ダナエはアルゴスの王アクリシオスの娘です。ダナエは、最初の子供が父親(アクリシオス)を殺すという予言のためにブロンズの塔に幽閉されていました。ところがダナエを見初めたゼウスが黄金の雨となって塔に侵入し、ダナエを身ごもらせてしまいます。
ダナエは、その後、ペルセウスを出産しました。孫を殺害することが出来なかったアクリシオスは、二人を箱に入れて流してしまいます。
セリーポス島に流れ着いたペルセウスはすくすくと成長し、数々の冒険ののち、アルゴスへと帰りました。ペルセウスを恐れたアクリシオスは、アルゴスから逃げ出しますが、円盤投げの競技会でペルセウスが投げた円盤が頭に当たって予言通り死んでしまいました。
この作品の上部の雲状の部分は、ゼウスの変身した黄金の雨を表しています。天使がゼウスに手招きしてダナエのシーツを剥がしています。これもかなり際どい作品ですね。黄金の雨は、多くの場合「金貨」で表されますが、それはティツィアーノの作品(下図2枚目)以降です。
・1531 Ganymede Abducted by the Eagle(鷲にさらわれるガニュメデス)
ガニュメデスはトロイアの王子です。美しいガニュメデスを見初めたゼウスは鷲に変身してガニュメデスを誘拐し、神々の給仕に抜擢しました。
・1532 Jupiter and Io(ユピテルとイオ)
ユピテル(ゼウス)は、妻であるユノ(へーラー)の目を盗み、彼女の神官であるイオを誘惑しました。ユノにバレそうになったユピテルは、イオを牝牛に変身させます。怪しいと思ったユノは、牝牛をユピテルから奪い、木に繋いで全身に目のある怪物アルゴスを見張りにつけました。
困ったユピテルはヘルメスを使ってイオの奪還を企てました。ヘルメスは、アルゴスを石で殴り殺し、イオの奪還に成功します。
この作品では、雲になったユピテルがイオを抱き寄せています。イオの顔の上にはうっすらとユピテルの顔がキスするかのごとく浮かび上がっています。
・1529年、妻が死亡しました。
・1534年、コレッジョはパルマからコレッジョに戻る途中で高熱を発し、数日後に死亡しました。45歳でした。