新・ノラの絵画の時間

西洋美術史・絵画史上重要な画家たちの代表作品と生涯をまとめました。

ヒエロニムス・ボスの生涯と代表作品(3) ノストラダムスの画家と言われるボスの後期の絵画一覧

 

 

ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch 1450 - 1516)概説(その3)

 

 ヒエロニムス・ボスは15世紀から16世紀初頭にかけて、ネーデルランド(現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ周辺)で活躍した初期フランドル派(初期ネーデルランド派)の画家です。

 

 ボスが生まれたのは、おそらく1450年頃、死亡した年は1516年となっており、イタリアでレオナルド・ダ・ヴィンチが生きていた頃とちょうど重なります(1452年〜1519年)。

 

 当時、ダ・ヴィンチの活躍していたイタリアは、ルネサンスの真っ只中でした。一方、ネーデルランドもロベルト・カンピンヤン・ファン・エイクらによって写実性が重んじられるようになり、中世絵画から脱却が図られていました。これをネーデルランド(フランドル)ルネサンスと言います。

 

 写実的絵画が中心の時代、ヒエロニムス・ボスは当時の流れに流されない、極めて個性的な絵画を多数残しました。奇妙なハイブリット・クリーチャーたちの跋扈する世界の終末のような作品にはシュールレアリズムの萌芽が認められます。

 

ヒエロニムス・ボスの後期の代表作品

 

後期(1500 〜 / 50歳 〜)

 

1500 The Seven Deadly Sins and the Four Last Things

 この絵画は、ヒエロニムス・ボスもしくは彼の弟子のものと考えられています。確かにボスの作品にしては出来の悪さが否めません。

 

 この作品の「four last things」は作品の四隅に円で描かれた部分で、人間の4つの最終イベントである「死」、「審判」、「天国」、「地獄」を表します。

 

 一方、中心の大きな円には、生前の7つの大罪「The Seven Deadly Sins」が描かれています。一番下が「ira / wrath(憤怒)」、そこから時計回りに「invidia / envy(嫉妬)」、「avaritia / greed(貪欲)」、「gula / gluttony(貪食)」、「pigritia / sloth(怠惰)」、「luxuria / lust(色欲)」、「superbis / pride(高慢)」となっています。

 

 中心の大きな円の真ん中にはキリストが描かれており、生前の大罪をすべて見通していることが示されています。キリストの下の文字は「CAVE CAVE DNS VIDET」で、「気をつけろ、気をつけろ、主がお見通しだぞ」と言う警告文になっています。

 

上から順番に「死」、「審判」、「地獄」、「天国」

 

 

 

「gula / gluttony(貪食)」

「avaritia / greed(貪欲)」

「pigritia / sloth(怠惰)」

「luxuria / lust(色欲)」

「superbis / pride(高慢)」

「ira / wrath(憤怒)」

「invidia / envy(嫉妬)」

 

1500 The Garden of Earthly Delights(快楽の園)

 この作品は三連祭壇画になっています。1枚目は三連画のパネルを閉じた状態の表面で、天地創造の大地と天空が美しい球体で描かれています。

 

 パネルを開くと、左にはエデンの園の中央にキリストとアダムとイヴが、また、右パネルにはおもちゃ箱をひっくり返したようなシュールな地獄が描かれています。

 

 一方、中央パネルは、通常のボスの三連祭壇画では審判が描かれているのですが、この作品では宗教的なモチーフが描かれていないため、何を表現しているのかが専門家の間でも議論になっています。何が描かれているにしても、大変美しく、楽しい作品です。

 

 

左パネル

中央パネル

 

 

右パネル

 

 

 

1500 The Temptation of St Anthony

 ヒエロニムス・ボスかその弟子の作品だろうと考えられています。モチーフは大アントニオスです。大アントニオスは、3世紀頃のエジプトの人物で、私財を貧しい人たちにすべて与えて、自分は砂漠にこもり厳しい修行を行った、修道院の開祖で、キリスト教の聖人です。

 

 大アントニウスは修行中にしてはのんびりした雰囲気です。周囲には木々が茂り、小川が流れています。大アントニオスの隣で寝そべっている豚は、彼の象徴であり、アントニオスの周りにいる変なクリーチャーたちは、アントニオスを誘惑して修行の邪魔をしてやろうと考えている小悪魔たちです。

 

 

 

1500 Triptych of the Temptation of St. Anthony

 この作品も大アントニウスの誘惑を描いた三連祭壇画です。先ほどののんびりした大アントニオスとはうって変わって、この作品のアントニオスは大量の謎のクリーチャーに翻弄されています。

 

 左のパネルでは、悪魔に打ち負かされてぐったりとしたアントニウスが3人の男たちに支えられています。彼らの周囲を謎の生物が取り囲んでいます。空では、これまたアントニウスが不思議な生き物に乗って飛んでいます。

 

 中心のパネルの真ん中では大アントニウスが跪いて祈りを捧げています。その周囲には奇妙な生き物たちが集まってアントニオスの祈りを妨げようとしています。

 

 右のパネルでは大アントニウスが本を読んでいます。これを邪魔しようと不可思議な生き物たちが彼の周りで騒いでいます。アントニウスもいい加減にうんざりした表情で、わけのわからない裸の男たちが支える机の方を見ています。本当にうっとうしいと思っているんでしょうね。

 

 

  左パネル

中央パネル

右パネル

 

1502 The Conjurer(手品師)

 この作品はボスもしくは彼の工房の弟子たちの作品です。手品師がカップと玉の手品を始めよう前に、カモとなる男性に玉を見せています。

 玉を食い入るように見る男性の背後では、眼鏡の男がそっと財布を盗もうとしています。子供も男性を見て何か企んでいるようです。この作品は注意深さと洞察の必要性を説く寓意画となっています。

 

 

1505 Christ Carrying the Cross

 

 

1506 The Last Judgment

 

 

1510 Christ Carrying the Cross

 十字架を運ぶキリストを描いたボスの作品です。1505年の同タイトルの作品とは異なり、写実性を排除したカリカチュア的人物たちがキリストの周りに集まってわあわあと騒いでいます。

 どの人物も特にキリストに興味はなく、自分たちのことで頭がいっぱいのようです。キリストはそんなか、目を閉じて黙々と十字架を運んでいます。人間の性を捉えた素晴らしい作品だと思いますが、好き嫌いが分かれそうです。

 

 

1516 The Haywain Triptych

 ボスの三連祭壇画です。閉じると下図のように中期でも登場した旅人が現れます。彼は様々な危険や誘惑が潜んでいる田舎の一本道(人生の寓意)を注意深く進んでいます。

 

 左のパネルはエデンの園です。遠景では神がイヴを造ったところを描き、中景ではリンゴの木の蛇がイヴを誘惑しています。近景では、知恵の実を食べて裸でいることに恥じらいを感じた二人が股間を隠しています。左から剣を振り上げた天使がエデンの園から二人を追い立てようとしています。

 

 中心のパネルは現生の生活と数々の罪を表しています。天上では、罪を犯す人々をキリストが監視しています。

 

 右パネルは生前に罪を犯した人々の末路です。変な魚に食べられたり、逆さに吊るされてお腹を裂かれたりしています。

 

 

左パネル

中心パネル

右パネル

  

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